2009年6月7日日曜日

ケアファンドセミナー「二言語環境に育つ子供たち」

昨日、JAケアファンド主催のセミナー「二言語環境に育つ子供たち」に参加してきました。講師は、ジョージタウン大学東アジア言語文化学部准教授の森美子先生。以下、案内からの抜粋です。

講演概要: 最近、米国では外国語教育への関心が高まり、将来を担う子どもたちに高い外国語力を身につけさせるための議論や試みが盛んになされています。その中で、家 庭で英語以外の継承語(保護者から受け継いだことば)を使う子どもたちが、高い二言語力を持つ人材として注目されています。
しかし、継承語は社会的教育的支援が少ないため、子どもの年齢が上がるにつれ、徐々に社会主要言語である英語へ置換されてしまうことが知られています。家 庭で使う言語と社会の主要言語が一致しない環境で育つ年少者の二言語習得を支援するには、まず、保護者が子どもたちの置かれている言語環境を理解し、年少 者が直面しうることばの問題を理解しておく必要があります。
セミナーでは、言語習得研究の見地から、年少者の二(多)言語習得の特質をまとめ、問題点を整理し、子どもたちの言語習得をどう支援できるかを考えて行きます。
今後、私の家族と私がどれくらい米国に滞在するかわかりませんが、言語に関し、私の子供達をどう育てていけばよいか、ヒントになるかと思い参加しました。

バイリンガルの恩恵
Bakerという研究者によると、バイリンガルであることの恩恵として以下が挙げられるとのこと。
  • 豊かな言語文化体験
  • コミュニケーションの量と質が向上する
  • 自分を肯定的にとらえ、自信が生まれる
  • 柔軟性のある考え方、言語学習能力向上
  • 進路の選択肢が広がる
私自身はバイリンガルではないので分かりませんが、上記のうち少なくとも最後の項目は事実ではないかと思います。

継承語を守る・育てる
継承語とは、保護者から引き継いだ言語、と定義されます。私達の場合、私の子供達の継承語は「日本語」ということになります。一方、社会主要言語とは、私達の場合「英語」ということになります。これまでの研究によると、容易に想像できるように、社会主要言語が継承語とは異なる国に滞在している場合、放っておくと三世代で継承語は完全に消滅するそうです。したがって、子供達の継承語を守る、あるいは育てるには相応の努力が必要だということです。

カミンズの二つの言語能力
カミンズという研究者によると、私達は以下の二つの異なった言語能力があり、「歌う」能力と「絵を描く」能力の関係と同じくらい、まったく異なるそうです。
  • Basic Interpersonal Communication Skills (BICS: 生活言語力)
  • Cognitive/Academic Language Proficiency (CALP: 学習言語力)
BICSという能力が必要な場面の代表的な例は「家庭の中」。「歯を磨きなさい」「手を洗いなさい」といった類のお母さんの言葉などなど。このような場面では、会話のコンテキストが自分の目の前にあるため、理解がかなり容易。

一方、CALPという能力が必要な場面の代表的な例は「学校」。たとえば、地理の時間でエジプトについて学ぶとき、子供達はエジプトについてまったく知らず、目の前にエジプトがあるわけではありません。したがって、エジプトについて知るためには、先生の言葉だけで知る必要があります。

将来、単に生活するだけでなく、仕事でバイリンガルとしての能力を発揮するには、CALPが必須だということが容易に想像できます。そして、ポイントは、小さいころに渡米してしまった、あるいは米国で生まれた子供が家庭の中で日本語を教えられたとしても、BICSは習得できたとしても、なかなかCALPを習得できないケースが多いそうです。

反対に、中学生、高校生ぐらいのときに渡米した子供は、英語についてBICSは習得できても、CALPを習得するのは時間がかかるので、CALPを習得できていないまま、米国の大学に進学するというつらい状況に置かれてしまうようです。

渡米年齢と二言語力
第一言語確立は思春期前後、だそうで、
  • 米国生まれ米国育ち、就学前に渡米し長期滞在する子どもは日本語より英語が強くなる
  • 第一言語確立後に渡米した子どもは日本語を保持しやすいが、英語取得に時間がかかる
という、研究結果が出ているそうです。補習校に通う日本人の高校生を対象に、小野式と呼ばれる日本語語彙テストの結果では、渡米年齢が10歳以降の子ども達に比べ、0歳から9歳までに渡米した子ども達の日本語能力が顕著に低かったそうです。同じく、上記高校生を対象に、小野式英語語彙テスト結果では、渡米年齢が14歳以降の子ども達に比べ、0歳から13歳までに渡米した子ども達の英語能力が顕著に高かったそうです。

以上データだけで言えば、上記「思春期」とは、大体10歳から13歳、と捉えることができそうです。

家庭での注意点
子ども達の継承語である日本語を守りたい・育てたい場合、今回のセミナーを受講し、私たち親は以下のような注意点が必要ではないかと考えました。
  1. 一貫性のあるコミュニケーション
  2. 子どもの置かれている環境の理解
  3. 積極的な日本語の教育
1.一貫性のあるコミュニケーション
子ども達は人の顔を見て言語を使い分けるそうです。したがって、子ども達に対し、お母さんがあるときは日本語で話しかけ、あるときは英語で話しかける、というような中途半端なコミュニケーションをすると、子どもが混乱するそうです。特に、配偶者の一方が外国人である家庭では注意が必要だそうです。私の家庭内では、徹底して日本語を使うべきかと思いました。

2.子どもの置かれている環境の理解
子ども達は、平日の月曜日から金曜日まで英語漬けで大変な思いをしているはず。せっかく家に帰ってきて日本語で話せると思ったら、しかられてばかりでは日本語を嫌いになってしまうかも。また、日常のしつけに関する言葉ばかりでは、一向にCALPを育てることができません。さらに、だんだん日本語より英語の方が強くなってしまう過程の中で、子どもが日本語の間違いをしたとき、どのように正すかも問題です。びしびしと間違いを正したりしていると、これもまた日本語を嫌いになってしまうかも。このような間違いに対しては慎重に対処すべきだと、講師が指摘していました。

3.積極的な日本語の教育
上記2.で少し触れましたが、CALPを育てるためには、かなり積極的な日本語の教育が必要ではないかと思いました。
渡米して約5ヶ月という私の子ども達が、現地校に通っています。早く新しい(言語)環境に馴染み友達を作り楽しく過ごしてほしい、という想いから、今までは家庭の中で子ども達に対し英語の勉強を促してきました。たとえば、夕食の席で英語で話しかけてみたり。
ですが、今日のセミナーを聞いてみて思い出したのは、子ども達は一週間の中で英語で過ごす時間が圧倒的に長く学校で英語教育について多くの支援を受けている、ということでした。現地校に通いだして4ヶ月以上過ぎ、ようやく慣れてきた現段階においては、家庭内でもう英語について支援しなくてもよさそうではないか、と思いました。それよりも、日本語について積極的に教育すべきではないか、と思いました。

自分なりのまとめ
米国の滞在が長くなるほど、現地語が強くなり継承語が弱くなる。長い目で見ると、こういう現実があることをこのセミナで再認識することができ、とても良かったです。私の子ども達には、日本人として日本語を失わせたくありません。まだまだ英語をしゃべれないにしても、だいぶ慣れてきたように思える現段階では、家庭で英語を支援するよりも、日本語をしっかり教育した方が良さそう、と思いました。英語は放っておいても伸びる、それよりも日本語の読み書きを辛抱強く身につけさせたいと思いました。

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